平成2年 天皇陛下御即位記念10万円金貨|図柄・重量・発行の記録
即位礼正殿の儀(平成2年11月12日)を記念した10万円金貨。表は鳳凰と瑞雲、裏は菊の御紋と桐と唐草。純金・30.0g・直径33.0mm、発行枚数は200万枚。
対象貨幣: 平成即位記念10万円金貨
概要
平成2年(1990年)11月12日の即位礼正殿の儀を記念して発行された、額面10万円の金貨です。当時の法律では記念貨幣の額面は1万円が上限だったため、この金貨のために特別の法律が作られました。
素材は純金で、量目30.0g・直径33.0mm、発行枚数は200万枚です。年銘は平成2年ですが、引換えが始まったのは平成3年4月10日でした。量目・枚数・発行の時期は当初の予定から変わっており、政府は国会で、直前に発覚した昭和の記念金貨の偽造事件とその後の偽造防止策を挙げて説明しています。
基本スペック
- 額面
- 100,000円
- 年銘
- 平成2年
- 素材及び品位
- 金〔純金〕
- 量目
- 30.0g
- 直径
- 33.0mm
- 発行枚数
- 200万枚
額面10万円の記念金貨と、令和の御即位記念金貨
| 天皇陛下御在位60年 | 天皇陛下御即位(平成) | 天皇陛下御即位(令和) | |
|---|---|---|---|
| 年銘 | 昭和61年・昭和62年 | 平成2年 | 令和元年 |
| 額面 | 100,000円 | 100,000円 | 10,000円 |
| 素材及び品位 | 金〔純金〕 | 金〔純金〕 | 金〔純金〕 |
| 量目 | 20.0g | 30.0g | 20.0g |
| 直径 | 30.0mm | 33.0mm | 28.0mm |
| 図柄(表) | 鳩・水・稲作文化 | 鳳凰と瑞雲 | 鳳凰と瑞雲 |
| 発行枚数 | 1,000万枚(昭和61年銘)・100万枚(昭和62年銘) | 200万枚 | 5万枚 |
| 申込又は引換開始日 | 昭和61年11月10日・昭和62年5月13日 | 平成3年4月10日 | 令和元年7月11日〜31日(販売申込期間) |
値は財務省「記念貨幣一覧」による。令和の金貨は販売価格(140,555円)で販売された。
出典: [S1] 財務省
1万円を超える記念貨幣 — 特別の法律で発行された理由
昭和64年(1989年)1月7日、昭和天皇の崩御に伴い、皇太子明仁親王が皇位を継承されました。即位を内外に示す即位礼正殿の儀は、平成2年11月12日に宮殿で行われました。宮内庁の記録では、158か国の元首・祝賀使節などおよそ2,200名が参列し、続く祝賀御列の儀では、宮殿から赤坂御所までの沿道に約11万7000名が集まりました。
記念貨幣の発行の根拠は「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」で、記念貨幣の額面は1万円・5千円・千円の3種類と定められています。大蔵大臣は国会で、この法律では1万円を超える額面の記念貨幣を発行できないため、10万円金貨を発行できるよう法律案を出したと説明しました。
こうして平成2年6月13日、「天皇陛下御即位記念のための十万円の貨幣の発行に関する法律」(平成2年法律第29号)が公布されました。素材・量目・発行枚数は、同年8月10日公布の政令(平成2年政令第245号)で定められています。
特別の法律で記念貨幣を出すのは初めてではありません。国会では前例として、東京オリンピック記念の千円銀貨と、昭和天皇御在位60年記念の10万円金貨・1万円銀貨が挙げられています。
出典: [S9] 宮内庁/[S4] e-Gov 法令検索/[S5] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S2] e-Gov 法令検索/[S3] e-Gov 法令検索/[S11] 国立国会図書館 国会会議録検索システム
図柄 — 鳳凰と瑞雲、菊の御紋と桐と唐草
財務省の記念貨幣一覧によると、表の図柄は「鳳凰と瑞雲」、裏は「菊の御紋と桐と唐草」です。一覧は、それぞれの図柄が何を表すかを説明していません。
図柄を決める過程は国会でも取り上げられました。大蔵省理財局長の答弁によると、大蔵大臣の私的な懇談会が平成2年1月9日・3月28日・4月5日の3回開かれ、天皇の肖像を使うことには慎重であるべきだという意見が多く出ました。昭和の御在位60年記念貨幣でも、肖像の採用は見送られています。
同じ答弁では、純金はやわらかく、縁に文字を刻むとゆがむおそれがあるという造幣局の技術的な意見も紹介されています。
一覧で表の図柄が「鳳凰と瑞雲」と書かれているのは、この金貨と、令和元年の天皇陛下御即位記念1万円金貨の2つです。
偽造事件と30グラム — 量目が増やされた経緯
この金貨の準備が進んでいた平成2年1月29日、昭和61年に発行された天皇陛下御在位60年記念10万円金貨の偽造が、都内の金融機関から警視庁への申告で明らかになりました。警察庁の国会答弁によると、国内のコイン業者3社が昭和63年3月から平成2年1月にかけて約10万5000枚を輸入しており、輸入された分はすべて偽造と鑑定されました。品物はスイスから発送されていました。同年10月の答弁では、偽造と把握された枚数は約10万8000枚です。
昭和の金貨は純金20.0gで額面10万円でした。大蔵大臣は、発行時に6万円ほどあった金の価値が金価格の変動で4万円ほどに下がり、その差が偽造を招いたという指摘を受けてきたと答弁しています。
平成の金貨は、量目を当初予定の20グラムから30グラムに増やしました。政府側は理由として、偽造事件で記念金貨のイメージが後退していること、国民に長く大切にしてもらえる、美術品としても鑑賞できるものにすること、偽造の誘因を減らすことを挙げています。
答弁では、新しい金貨の偽造防止策として、表面に光沢を持たせる加工、周囲の粒状の模様90個のうち2個の形を変えること、通し番号を記した紙を封入することなどが、予定として説明されました。
出典: [S6] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S7] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S5] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S1] 財務省
350万枚から200万枚へ — 政令と国会答弁に残る経過
発行枚数は当初350万枚とされ、平成2年1月初めに発表されていました。理財局長は、昭和の御在位60年記念金貨の約3分の1にした理由として、抽せんに当たっても引き取らない人が出て、市中に出回る量が増えたことを挙げています。
発行の時期も、当初は平成2年の秋の予定でした。発行枚数を200万枚とする政令は、平成2年8月10日に公布されています。
枚数と時期が変わった理由について、理財局長は平成2年10月の国会で、偽造防止策などの観点から慎重な製造を行う結果、200万枚の発行にとどまらざるを得なくなったと答弁しました。平成3年4月の国会では、偽造防止策の実施に伴う製造機械の準備などに相当の期間を要して製造開始が平成2年11月になったこと、平成2年度中に製造し切るものとして200万枚が可能になったことを説明しています。引換えは平成3年4月に行われました。
これらは政府の答弁による説明です。政令の公布(8月)は製造開始(11月)より前であり、枚数を決めた判断の経過を示す資料は、答弁のほかには確認できていません。
その結果、年銘は平成2年でありながら、引換開始日は即位礼正殿の儀から149日後の平成3年4月10日です。同じ記念の500円白銅貨は、正殿の儀の4日前の平成2年11月8日に引換えが始まっています。
200万枚の場合の財政収入について、政府は平成3年4月の国会で約700億円と答えています。
出典: [S6] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S5] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S7] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S8] 国立国会図書館 国会会議録検索システム/[S1] 財務省/[S9] 宮内庁
収集・研究の視点
この金貨を調べるときは、まず財務省の記念貨幣一覧で、年銘・量目・発行枚数・引換開始日を確かめます。続いて法律(平成2年法律第29号)と政令(平成2年政令第245号)の条文を読むと、素材・量目・枚数が政令で定められていることが分かります。政令には、表面に光沢を持たせて容器に入れたもの(いわゆるプルーフ)の販売価格を11万3300円とする規定もあります。
発行の経緯は、国立国会図書館の国会会議録検索システムで、平成2年の衆議院・参議院の大蔵委員会の議事録を読むと追えます。同じ額面の昭和の御在位60年記念金貨と並べると、量目(20.0gと30.0g)・直径(30.0mmと33.0mm)・発行枚数が違います。量目の増加と枚数について政府が国会で述べた理由には、偽造事件の後の記念金貨のイメージと偽造防止策が含まれます。
記念貨幣は今も額面で使えますが、自動販売機などでは使えないことがあり、財務省は金融機関の窓口での引換えを案内しています。記念貨幣が法貨として通用するのは1回の支払いで額面の20倍までで、この金貨では20枚までです。
出典: [S1] 財務省/[S2] e-Gov 法令検索/[S3] e-Gov 法令検索/[S4] e-Gov 法令検索/[S10] 財務省(よくあるご質問)/[S6] 国立国会図書館 国会会議録検索システム
資料で確認できていないこと
- 偽造事件が量目の変更を決めた直接の原因か、製造の遅れが発行枚数を決めたかの因果関係(政府の国会答弁以外の資料。200万枚を定めた政令の公布は平成2年8月10日で、製造開始の11月より前)
- 鳳凰・瑞雲・菊の御紋・桐・唐草のそれぞれの意味についての、財務省・造幣局などの公的な説明(造幣局のこの金貨の説明頁は取得できなかった)
- 国会で予定として説明された偽造防止策(光沢の加工、粒状の模様の変形、通し番号を記した封入紙)が、実際に発行された金貨にどのように施されたか
- 最終的な引換えの方法と、引き換えられた枚数
- 図案の作者と、図柄が決まった最終的な経過
- プルーフの製造枚数と販売の方法
まとめ
編集部のまとめ
平成の天皇陛下御即位記念10万円金貨は、記念貨幣の額面の上限を超えるため特別の法律で発行された金貨です。当初予定の20グラム・350万枚から30グラム・200万枚に変わり、引換えは翌年4月になりました。政府は国会で、その理由として偽造事件の後の記念金貨のイメージと偽造防止策を挙げています。年銘と引換開始日の離れや、昭和の金貨より重く大きい仕様は、政令と国会会議録で経過を確かめられます。
記念貨幣全体の一覧は天皇陛下御即位記念貨幣、昭和の金貨は天皇陛下御在位60年記念貨幣で紹介しています。
出典
- [S1]財務省「記念貨幣一覧(2026.9.11現在)」 PDF 2頁(天皇陛下御在位60年)・3頁(天皇陛下御即位・平成)・33頁(天皇陛下御即位・令和) https://www.mof.go.jp/policy/currency/coin/commemorative_coin/kinenkaitiran.pdf(2026-10-10 確認)
- [S2]e-Gov 法令検索「天皇陛下御即位記念のための十万円の貨幣の発行に関する法律(平成2年法律第29号)」 第1条・第2条・附則 https://laws.e-gov.go.jp/law/402AC0000000029(2026-10-11 確認)
- [S3]e-Gov 法令検索「天皇陛下御即位記念のための十万円の貨幣の形式等に関する政令(平成2年政令第245号)」 第1条〜第3条・附則 https://laws.e-gov.go.jp/law/402CO0000000245(2026-10-11 確認)
- [S4]e-Gov 法令検索「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」 第5条・第7条(現行の条文) https://laws.e-gov.go.jp/law/362AC0000000042(2026-10-11 確認)
- [S5]国立国会図書館 国会会議録検索システム「衆議院 大蔵委員会 第11号(平成2年5月24日)」 発言番号 2・40・44・54・56・115・117・159 https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111804629X01119900524(2026-10-11 確認)
- [S6]国立国会図書館 国会会議録検索システム「参議院 大蔵委員会 第5号(平成2年6月1日)」 発言番号 204・263・283・301 https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111814629X00519900601(2026-10-11 確認)
- [S7]国立国会図書館 国会会議録検索システム「参議院 決算委員会 閉会後第3号(平成2年10月9日)」 発言番号 232・240 https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111814103X00319901009(2026-10-11 確認)
- [S8]国立国会図書館 国会会議録検索システム「参議院 大蔵委員会 第8号(平成3年4月9日)」 発言番号 73・75 https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112014629X00819910409(2026-10-11 確認)
- [S9]宮内庁「記録でみるご即位20年のお歩み「ご即位・大礼」」 本文 https://www.kunaicho.go.jp/20years/20kiroku/sokui.html(2026-10-11 確認)
- [S10]財務省(よくあるご質問)「過去に発行された記念貨幣は、現在でもお金として使えますか」 答 https://www.mof.go.jp/faq/currency/07ai.htm(2026-10-11 確認)
- [S11]国立国会図書館 国会会議録検索システム「衆議院 予算委員会 第4号(平成2年4月3日)」 発言番号 161 https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111805261X00419900403(2026-10-11 確認)
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